第47回― 丘の上の「こくぞうさん」


横町町家交流館のある八女福島地区は、江戸時代からの白壁の町並みが残る「伝統的建造物群保存地区」です。この地区から東に10キロ程離れた上陽町轟地区には、古くから「こくぞうさん」の愛称で親しまれている「虚空蔵神社(こくぞう)」があります。商売繁盛や学業にご利益があるとされ、多くの参拝者が訪れています。
今回は八女市に残る神仏習合の信仰を今に伝える「虚空蔵神社」をご紹介します。
『無限の知恵と慈悲で地元に愛される仏様』 ■大火がきっかけで地域の守り神に虚空蔵神社は、上陽町下横山を通る県道798号線沿いの小高い丘に鎮座しています。丘の上に続く100段以上の石段を登ると、大正時代に建てられた2頭のこま犬に出迎えられます。木々に囲まれた静かな境内に歩みを進めると、左右に神事で使われるであろう2棟のあずまやがあり、左手には八角形の石が、右手には五右衛門風呂のような釜が置かれています。
その先さらに30段ほどの石段を登った先に虚空蔵神社の拝殿が現れます。神社自体の創建については不明ですが、中世に存在していた生駒野城(いごまのじょう)の本丸跡に建てられたとされています。正面左手には石ほこらがあり、1875(明治8)年に轟地区で人家の大半が焼失したとされる大火をきっかけに地域の守り神として祭られていると考えられます。
神社裏の石崖には赤い頭巾をかぶった高さ50センチほどの虚空蔵菩薩(ぼさつ)が20体以上並んでいます。虚空蔵とは「広大な宇宙のような無限の知恵と慈悲を持った菩薩」を意味します。設置理由や時期など詳細は不明ですが、古くから知恵や知識、記憶力向上のご利益があるとされ、多くの人々の信仰を集め、「こくぞうさん」として地元で親しまれています。
■継承される「福銭」と「十三参り」
地元の人々に愛されている虚空蔵神社には、二つの習わしが残されています。一つ目が「福銭」です。1月の大祭の時に福銭(5円)を授かり、持ち帰った後ご利益を願います。願いが成就した際には同年9月の大祭時にその倍の金額をお返しすることで神様への感謝の気持ちを表します。他ではあまり見られない風習は、昔から地域の人々の間で受け継がれてきました。
二つ目は、数え年で13歳を迎えた子どもたちが参拝する「十三参り(知恵詣り)」です。子どもたちが大人への第一歩を踏み出す節目として、これから先の万物の福徳と英知を授かるため、虚空蔵菩薩に参拝します。地域の人々にとっては、成長を見守る大切な人生儀礼の場となっています。
さらに、虚空蔵神社には神仏習合の面影も残されています。神社でありながら仏教の像である虚空蔵菩薩像を祭る珍しい形態です。しかし明治時代初期に発布された神仏分離令により、仏像や仏具などの破壊運動が行われます。虚空蔵菩薩もその例に漏れず破壊され、境内には首の切られた仏像が残されています。
虚空蔵神社は当館から車で15分の場所に位置しています。静かな森に囲まれた神社では、生駒野城の本丸として地域を見守り続けてきた歴史や当時の信仰の重みを身近に感じることができます。また、毎年1月13日と9月13日には境内で「虚空蔵菩薩祭」が開催されます。地域内外から多くの参拝者でにぎわい、「福銭」の風習も行われます。世代を超えて受け継がれる地域文化にぜひ触れてみてください。
■次回予告次回は星野村に伝わる「風流・はんや舞」についてご紹介します。





